









148 x 210mm|208頁|並製本
執筆・対談:椎名勇仁、椹木野衣(美術評論家)、君島彩子(宗教学者)、清水建人(せんだいメディアテーク)
編集:椎名勇仁、細谷修平、せんだいメディアテークブック
デザイン:伊藤裕
わたしたちにとって粘土は、クレヨンと並んで幼児期に触れる最初の表現媒体ではないでしょうか。柔らかく自在に状態を変え、どんな形にすることもできる粘土の性質を「可塑性(かそせい)」といいます。それは魅力的ですが、成長とともに粘土の遊びに没頭することは少なくなっていくものです。
仙台にゆかりの美術家、椎名勇仁(しいな・たけひと)は、そうした粘土の性質に関心を持ち続け、塑造を中心とした表現活動を20年以上続けてきました。活動初期の1990年代末には、粘土だけでなく日用品や食べ物など、多様な素材で可塑性を確かめる実験を繰り返します。やがて、水分次第で自在に状態を変化させる粘土が、焼成によって可塑性を失うことから、粘土を不可逆な時間の隠喩として捉えるようになります。
2000年代に入ると、粘土の起源を遡るように塑像を活火山へ持ち込み、その熱で素焼きする〈火山焼〉のシリーズを開始しました。火山から生まれた岩石が、風化して粘土になるまでには数万年から数百万年の膨大な時間を要するとされます。焼成によって溶岩をまとった物体は、その時間を超えた可塑性の循環の象徴なのです。椎名は、火山を媒介とすることで、人の身体や時間の認識を大きく逸脱し、粘土の性質を観念的に継続させています。そして、この火山焼にとどまらず、椎名の表現とは、かたちを変化させる技術を駆使して、ものごとの成り立ちや因果性を物語る試みだといえるでしょう。
本書は、初期の作品から現在制作中の「十二神将」のシリーズまで、椎名の活動の成果を年代記のように配置した、せんだいメディアテークでの展覧会「椎名勇仁可塑圏:ねん土的思考」の図録であり、椎名による初めての書籍になります。
21世紀に入りわたしたちの社会は、デジタル技術への依存を高め、数値で示される正しさの前に、寛容さを失い硬直化してはいないでしょうか。個人もまた、ビッグデータをもとに類型化され、平均化された数値的な存在として扱われようとしています。あたかも可塑性を失いつつあるようなこの社会のなかで、椎名の手さぐりの探求は、正解に囚われないことの大切さや、数値ではない「わたし」のかたちと重さを気づかせてくれるはずです。
【目次】
*作品図版(1996-2024年)
*対談・論考
椹木野衣×椎名勇仁「仏像と怪獣──火山焼と十二神将をめぐって」
椹木野衣「粘土が硬くなる時──椎名勇仁と仏像の熱力学」
君島彩子×椎名勇仁「仏のイメージ──現代仏像考」
君島彩子「年度から生まれる新しい十二神将像」
清水建人「Note 椎名勇仁可塑圏:ねん土的思考」
*資料(活動歴・作品リスト・参考作品)*椎名勇仁「彫塑とは時空に秩序を与える営みのこと」
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椎名勇仁(しいな・たけひこ)
1973年岩手県生まれ。名取市在住。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。各地での滞在型制作で〈火山焼〉や〈霊長〉など独特なシリーズの作品を展開している。主な展覧会に「酸化したリアリティ」(2010年、群馬県立近代美術館)、「アートみやぎ2011」(2011年、宮城県美術館)他。
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